生命医科学研究科生命医科学研究科
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生体膜ダイナミクス研究室

生体膜ダイナミクス研究室

概要

細胞は脂質膜によって外界から隔てられることで初めて生命として機能することができます。膜タンパク質は、細胞が外界からモノを取り込んだり、外からやってくる情報を認識して細胞内の必要な場所へと伝えたりします。私たちの研究室では、クライオ電子顕微鏡を使って、細胞の幅広い機能を担う膜タンパク質の様々なはたらきを理解しようとしています。

スタッフ

教授 西澤 知宏(にしざわ ともひろ)  ResearchMap → 
西澤 知宏(にしざわ ともひろ)
<略歴>
京都大学大学院理学系研究科博士後期課程修了(2009年)、理学博士。東京大学大学医科学研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科・助教・准教授を経て、2021年4月横浜市立大学大学院生命医科学研究科教授。
<メッセージ>
生体内ではたらく分子の形を見ることは、その働きを理解するうえで必須ともいえます。我々のグループでは、特に膜タンパク質に注目して、その機能を理解しようと研究を進めています。膜タンパク質は、脂質膜を越えた物質輸送や情報伝達を行うだけでなく、細胞が移動したり、かたちを変えたりするような過程においても重要な役割を果たします。クライオ電子顕微鏡は、生体内ではたらく様々な分子の構造を知ることができるだけではなく、脂質膜の形態などを含めた変化を調べることもできるため、細胞の機能に迫るのに最適なツールです。研究の原動力となる「面白い」という気持ちを大切にしながら日々の研究を進めていきたいと思っています。
助教 李 勇燦(リ ヨンチャン) ResearchMap →  
李 勇燦(リ ヨンチャン)
<略歴>
東京大学大学院理学系研究科博士後期課程修了(2018年)、博士(理学)。2016年日本学術振興会特別研究員。2018年マックスプランク生物物理学研究所・博士研究員。2019年ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム長期フェロー。2021年5月から横浜市立大学助教。
<メッセージ>
2010年代にクライオ電子顕微鏡の分野で起きた技術革新(Resolution Revolution = 分解能革命)によって、以前は極めて困難であった、膜タンパク質の立体構造決定が格段と容易になりました。今も進化し続けるこの最新技術を用いて、ヒトが持つ400種類以上もの膜輸送体タンパク質群の作動原理をつぶさに調べていくのが当面の目標です。見事で精緻な仕組みを持った膜輸送体の理解を通じて、人の健康と疾患治療に役立つ生化学・構造生物学研究を展開していきます。

研究内容

 脂質二重膜は細胞は表面をおおって外界との隔たりを作るだけでなく、細胞内小器官のような様々なコンパートメントを作り出し、生体内で起こる反応を効率よく行うための場を提供しています。多くの生体分子、例えばタンパク質、金属イオン、代謝分子などは親水的であるため、この脂質膜を越えて移動することができません。輸送体と呼ばれる膜タンパク質は、こういった分子を選択的に脂質を越えて輸送することで、細胞外からモノを取り込んだり、細胞内の代謝産物を他の離れたコンパートメントへ輸送することができます。膜タンパク質には他にも、外界からシグナル分子を受容して細胞内へと情報を伝える受容体、細胞外マトリクスに結合して細胞の移動/遊走に関与する接着タンパク質、脂質膜中で集まることで脂質膜の形態を変えたり、細胞間での接着に関わったりするものも知られています。我々のグループは、主にクライオ電子顕微鏡によって、このような膜タンパク質の様々な機能を明らかにするための研究を進めています。
図1. 脂質輸送体(フリッパーゼ)の構造変化

膜輸送体、受容体の分子機構の解明

膜輸送体や受容体は、特定の分子の結合や刺激によって構造変化をすることで、物質/情報の移動を実現しています。したがって、その分子メカニズムを明らかにするためには、一つの状態だけではなく、とりうる複数状態の分子構造を明らかにすることが重要となります。クライオ電子顕微鏡は生体分子のフレキシブルな動きを含めて解析することができることから、分子の動的構造を明らかにすることができます。脂質や糖の輸送体、あるいはGPCRのような受容体が、リガンドの結合や外部刺激によって生じる構造変化の詳細を明らかにすることで、そのはたらきを理解することを目指します。また、これらの分子は創薬標的であることが多く、その薬剤の結合様式や作動機構を知ることで、効率的なドラッグデザインのための情報を提供することも目指します。
図2. 膜タンパク質の関わる細胞機能 図2. 膜タンパク質の関わる細胞機能

膜タンパク質と脂質膜相互作用の理解

膜タンパク質は脂質分子と直接相互作用したりして、脂質膜の形態を変化させたりすることができます。特に、細胞間接着や細胞膜・オルガネラの形態形成に関わる膜タンパク質は、脂質膜中で集積してはたらくものがたくさん知られています。クライオ電子顕微鏡は、脂質膜中の膜タンパク質を直接解析することができます。したがって、細胞接着や、細胞融合(受精、ウィルス感染)に関わる膜タンパク質が脂質膜中でどのようにはたらいているのか、脂質膜のリモデリングや形態変化を含めてクライオ電子顕微鏡による観察から明らかにすることを目指します。

主要文献(Selected Publications)

‣Umeda R*, Satouh Y*, Takemoto M, Nakada-Nakura Y, Liu K, Yokoyama T, Shirouzu M, Iwata S, Nomura N, Sato K, Ikawa M, Nishizawa T†, Nureki O†. Structural insights into tetraspanin CD9 function. Nat. Commun. 11, 1606. (2020)
‣Hiraizumi M, Yamashita K, Nishizawa T†, Nureki O† Cryo-EM structures capture the transport cycle of the P4-ATPase flippase. Science, 365, 1149-1155 (2019)
‣Lee Y, Wiriyasermkul P, Jin C, Quan L, Ohgaki R, Okuda S, Kusakizako T, Nishizawa T, Oda K, Ishitani R, Yokoyama T, Nakane T, Shirouzu M, Endou H, Nagamori S, Kanai Y, Nureki O†. Cryo-EM structure of the human L-type amino acid transporter 1 in complex with glycoprotein CD98hc. Nat. Struct. Mol. Biol. 26, 510-517 (2019)
‣Lee Y, Nishizawa T, Takemoto M, Kumazaki K, Yamashita K, Hirata K, Minoda A, Nagatoishi S, Tsumoto K, Ishitani R, Nureki O. Structure of the triose-phosphate/phosphate translocator reveals the basis of substrate specificity Nat Plants 10, 825-883 (2017)
‣Shihoya W*, Nishizawa T*, Okuta A*, Tani K, Dohmae N, Fujiyoshi Y, Nureki O, Doi T, Activation mechanism of endothelin ETB receptor by endothelin-1. Nature 537, 363–368 (2016)
‣Lee Y, Nishizawa T, Yamashita K, Ishitani R, Nureki O. Structural basis for the facilitative diffusion mechanism by SemiSWEET transporter. Nat. Commun., 6, 6112 (2015)
‣Suzuki H*, Nishizawa T*, Tani K*, Yamazaki Y, Tamura A, Ishitani R, Dohmae N, Tsukita S, Nureki O†, Fujiyoshi Y†. Crystal structure of a claudin provides insight into the architecture of tight junctions. Science, 344, 304-307 (2014)
‣Nishizawa T, Kita S, Maturana AD, Furuya N, Hirata K, Kasuya G, Ogasawara S, Dohmae N, Iwamoto T, Ishitani R†, Nureki O†. Structural basis for the counter-transport mechanism of a H+/Ca2+ exchanger. Science 341, 168-172 (2013)

研究部門