現在進行中のプロジェクト / Ongoing projects

軸索ガイダンス因子セマフォリンとその受容体プレキシン
/ Axon guidance cue "Semaphorin" and its receptor "Plexin"

神経回路を形成している個々の神経細胞は、軸索と呼ばれる“手”を伸ばし、他の神経細胞と結合しており、脳や神経が正常に働くためには、神経細胞同士が適切な組み合わせで“手”を結び合うことが重要です。セマフォリンは、軸索を適切な方向へと導くガイダンス因子として発見されたタンパク質であり、神経細胞上の受容体プレキシンに細胞の外側から作用することで、伸びようとする軸索を反発させるシグナルを伝達します。われわれは、すでにこれまでの研究で、細胞の外側で形成されるセマフォリンとプレキシンの複合体の立体構造を決定することに成功しています(Nature (2010) 467, 1123, Nogi et al.)。セマフォリンとプレキシンはともにセマドメインというよく似た領域を持っており、互いのセマドメインを介して2対2の4量体を作ることが構造解析から明らかになっています。しかしながら、この細胞外での2対2の複合体形成が、受容体であるプレキシンの細胞の内側の領域にどのような変化をもたらし、細胞内シグナル伝達の引き金を引いているのかについては、まだはっきりとした答えが得られていません。そこでわれわれは、プレキシン分子全体の形やその動きについての情報を集めることで、活性化の仕組みを明らかにしていこうと考えています。

Sema_Plxn

膜内配列切断を介したシグナル伝達
/ TM signaling mediated by regulated intramembrane proteolysis

膜内配列切断(Regulated intramembrane proteolysi; RIP)は、1回膜貫通型の膜タンパク質が膜内部で特異的に加水分解を受ける現象です。切断は、膜内切断プロテアーゼ(Intramembrane-cleaving protease; I-CLiP)と呼ばれる膜の中に活性部位を持つ特殊な酵素によって行われます。切断を受ける膜タンパク質の多くは、転写因子や受容体リガンドなどの前駆体であり、切断によって膜から解き放たれ、シグナル伝達を行います。一般的な受容体とリガンドによるシグナル伝達は、受容体の会合やコンフォーメーション変化など、受容体の膜上での「物理的な構造変化」を介したシグナル伝達であると言える一方で、この膜内配列切断を介したシグナル伝達は、1回膜貫通型タンパク質の膜上での「化学的な構造変化」を介したシグナル伝達であると言えます。われわれは、基質となる膜タンパク質が、膜内切断プロテアーゼにどのように認識され、切断を受けているのかを明らかにするため、 構造生物学的な研究に取り組んでいます。

RIP

脳神経系の発生を制御するシグナル伝達
/ Signal transduction during development of central nervous system

われわれは、上記のセマフォリンシグナル以外にも、脳の層構造形成を制御するリーリンシグナルや、神経シナプスの形成に関わるタンパク質の構造解析にも取り組んできました。特に、リーリンシグナルにおいてシグナル分子として働くリーリンについては、この分子に特徴的なドメインの構造を世界に先駆けて決定し(EMBO J (2006) 25, 3675, Nogi et al., Proc Natl Acad Sci USA (2007) 104, 9988, Yasui et al.)、受容体との複合体構造の決定にも成功しています (Structure (2010) 18, 320, Yasui et al.)。 また、神経シナプスの形成に関する研究でも、シナプス特異的な細胞間接着タンパク質である、ニューレキシン・ニューロリギンのペアの複合体構造を決定しています(Cell Rep (2012) 2, 101, Tanaka et al.)。この複合体解析では、X線結晶解析によって原子レベルの分子構造の決定を行うだけでなく、電子顕微鏡イメージングと連携することで、細胞間における接着タンパク質の集積状態の解析も行いました。 これらの系に関しても、シグナル伝達の仕組みをより深く理解するために、さらなる構造解析に取り組んでいます。

動物細胞を用いたタンパク質生産技術の開発
/ Development of protein production system using mammalian cells

われわれは、文部科学省「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」に参画し、動物細胞を用いたタンパク質生産技術の開発と外部研究研究者への技術提供を行っています。糖鎖修飾系に変異を有する細胞株を用いることで、結晶化にも適した均質なタンパク質試料を調製することも可能です。動物細胞を用いたタンパク質発現に興味をお持ちの方は「創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業」のHPをご覧になって下さい。

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