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生命医科学研究科 創薬有機化学研究室 高田 浩行さん、新たなペプチド - 核酸コンジュゲートの開発に成功!

2022.09.22
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生命医科学研究科 創薬有機化学研究室 高田 浩行さん、新たなペプチド - 核酸コンジュゲートの開発に成功!

生命医科学研究科 高田 浩行さんらの論文が、Bioconjugate Chemistryに掲載されました。

 
生命医科学研究科 博士後期課程2年の高田 浩行さんら研究グループは、ペプチド - 核酸コンジュゲートの開発に成功し、研究成果が「Bioconjugate Chemistry」に掲載され、Front Coverに採択されました。

 
【論文著者】
生命医科学研究科 博士後期課程2年
創薬有機化学研究室所属
高田 浩行(たかだ ひろゆき)さん

【論文タイトル】 
「Helix-Stabilized Cell-Penetrating Peptides for Delivery of Antisense Morpholino Oligomers: Relationships among Helicity, Cellular Uptake, and Antisense Activity」

【掲載雑誌】
Bioconjugate Chemistry

研究内容 ~今回の研究内容について高田さんに解説していただきました~

近年、DNAやRNAといった天然および人工核酸から形成される核酸医薬品という創薬モダリティが高い注目を集めています。核酸医薬品は主にRNAを標的とし、その遺伝子発現を制御することで治療効果を発揮します。この核酸医薬品が抱える課題の一つとして、高分子量・高極性といった物理化学的な性質ゆえに細胞膜透過性が低いことが挙げられます。この問題を解決するために、膜透過性ペプチドを核酸医薬品のデリバリーツールとして活用する試みが研究されており、とりわけアンチセンス核酸*1の一種であるモルフォリノ核酸(PMO)*2においてはその成功事例が数多く報告されています。
 膜透過性ペプチドはTATペプチドやオリゴアルギニンペプチドに代表される、細胞膜に対して高い透過性を有するオリゴペプチドの総称で、過去数十年に渡ってその構造学的な研究が行われてきました。例えば、ヘリックス構造など特定の二次構造を安定化させたペプチドフォルダマーは、ランダムコイル型のペプチドに比べて高い細胞膜透過性を有することが知られています。一方で、このような膜透過性ペプチドフォルダマーを前述のPMOの細胞内送達に活用した事例はほとんど報告されておりませんでした。そこで私たちは、ヘリックス構造を安定化させた膜透過性ペプチドを設計し、それらとPMOのコンジュゲート体(PPMO)*3の細胞内取り込み量やアンチセンス活性を評価しました。
 本研究の結果から、ヘリックス型の膜透過性ペプチドを結合させたPMOは、細胞内に高い効率で取り込まれ、また、エンドソーム脱出*4を促進させた条件下において高いアンチセンス活性を示すことが明らかとなりました。この結果から、PPMOのペプチド部分のヘリックス構造を安定化させることの有効性が示されたと考えております。今後はペプチド構造の更なる最適化によって、より高活性のPPMO分子を創出したいと思います。
<用語説明>
*1 アンチセンス核酸:標的となるRNAとワトソンークリック塩基対を形成して遺伝子発現制御を行う核酸医薬品の一種。RNaseH1を介して標的RNAの分解を誘導するギャップマー型アンチセンス核酸や、スプライシング機構に関与するスプライシング制御型アンチセンス核酸などがある。

*2 モルフォリノ核酸(PMO):Phosphorodiamidate Morpholino Oligomerの略。核酸のリボース環がモルフォリノ環に置換された人工核酸。リン酸部分に電荷を持たず、ヌクレアーゼ耐性が高く細胞膜透過性が低いといった特徴を有する。

*3 PPMO:Peptide-conjugated PMOの略。ペプチドとモルフォリノ核酸が共有結合を介して結合しているコンジュゲート化合物の総称。

*4 エンドソーム:ペプチドや核酸が細胞内に取り込まれる際に、それらを内包して細胞内に輸送する小胞のこと。アンチセンス核酸が標的のRNAに作用するためには、細胞内でエンドソームから脱出する必要がある。

高田 浩行さんのコメント

本研究は、近年臨床応用に向けて精力的に研究開発が行われているアンチセンス核酸に対して、これまで出水研究室で研究を進めてきたペプチドフォルダマーをデリバリーツールとして活用した研究になります。本研究によって示された、ペプチド部分のヘリックス構造を安定化させることがPPMOの細胞内取り込み量およびアンチセンス活性の向上に寄与するという結果は、今後のPPMOの分子設計において有用な知見であると考えております。また、研究内容が評価され、雑誌のFront Coverに採択して頂けたことを大変光栄に思います。
本研究の発表に際して、出水先生をはじめ、サポート頂いた先生方、および、共著者の土屋さんに深く感謝申し上げます。今後もこの分野の発展に貢献出来るよう研究に邁進して参りたいと思います。

指導教員 出水 庸介 大学院客員教授のコメント

論文アクセプトおめでとうございます!
本研究は、高田さんが自らプロジェクトを立ち上げ、綿密な研究計画を作成し、分子のデザイン・合成・構造解析を行い、必要な評価系を確立・実施し、論文執筆までを一気呵成にやり遂げてくれたものです。また、本論文がFront coverに採択されたことも(私のコレクションが増えて)大変嬉しく思います。
研究に費やせる時間が限られている社会人博士課程の高田さんの研究に取り組む姿勢は、学生さんにとっても良いロールモデルとなっています。社会人との両立は大変でしょうが、学位取得というゴールに向けて超人的なスピードで駆け抜けてくれるものと期待しています。

 

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