明石グループ : 質量分析(MS)による構造生物学

 

 

研究内容

 

(1)         ヌクレオソームコア(NCP)関連の生体高分子の構造研究

 

真核生物の遺伝子は、4種類のヒストンタンパク質(H2AH2BH3H4)と約146塩基対のDNAからなるヌクレオソームコア(NCP)を最小単位としてコンパクトに折りたたまれて核内に存在しています。遺伝子を必要な時空間で発現させるために、NCPを構成する各ヒストンタンパク質のN末端領域のテイル部分は、高度に修飾されて転写開始の ON/OFF を調節しています。各修飾がどのような構造変化をもたらすのかを明らかにするため、私たちは質量分析(Mass Spectrometry; MS)を主な手段として研究を展開しています。

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(2)         巨大生体超分子の観測

 

生体高分子からなる複合体が機能する際、分子の周りには無数の水分子が存在します。一方、MSは、高真空下で測定を行うことから、水がない環境で不安定な複合体は解離しやすくなります。私たちは種々工夫をすることで、巨大タンパク質複合体(生体超分子)の観測に挑戦しています。そして、200 kDa を超える巨大な複合体である NCP でも、解離させずに丸ごと観測するネイティブ質量分析に世界で最初に成功しています。

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        *** 200 kDa の巨大複合体でも丸ごと観測できます  ***

 

(3)         イオンモビリティ質量分析を用いたタンパク質複合体の構造研究

 

質量分析装置はイオンを m/z (電荷あたりの質量)で分離します。イオンモビリティ質量分析では m/z に加えて、「かたち」(かさ高いか、コンパクトか)で分けることができます。この装置を用いて、タンパク質や複合体の構造研究を進めています。

 

実験に使う装置: Waters SYNAPT G2 HDMS

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(4)         ネイティブ質量分析の高度化研究

 

ネイティブに近い状態でタンパク質複合体を質量分析するためには、高純度に精製した試料を用いるのが常識でした。私たちは、究極的には「一細胞ネイティブ質量分析」を目指し、生細胞から直接サンプリングしてネイティブ質量分析を行う挑戦をし、2021年に赤血球の一細胞ネイティブ質量分析に世界で初めて成功しました。さらに、その技術を創薬スクリーニングのための手法として発展させるべく、ヒト培養細胞での検討を重ねています。シグナル伝達に関わる受容体等、医薬品の開発において重要なターゲットである不安定な膜タンパク質のネイティブ質量分析にも挑んでいます。